子どもの性別違和、まず知っておきたいことは?

大阪医科大学准教授の康純先生にインタビューしました!

康 純(こう・じゅん) :大阪医科大学総合医学講座神経精神医学教室准教授。性同一性障害診療の専門家として豊富な臨床経験をもち、性同一性障害の診療ガイドライン作成などにも携わっている。
康 純(こう・じゅん) :大阪医科大学総合医学講座神経精神医学教室准教授。性同一性障害診療の専門家として豊富な臨床経験をもち、性同一性障害の診療ガイドライン作成などにも携わっている。

 

   Q1 性別違和とは、なんでしょうか

  Q2 大人の性別違和との違いは? 

  Q3 性別違和に原因はあるの?

  Q4 LGBTの子、見分けられる?

  Q5 息子がスカートを履きたがる。どうしたら良いでしょうか?

  Q6  病院にはかかった方がいい?

  Q7 身体への違和感と治療について

  Q8   周りの大人に一番伝えたいこと 

Q1 性別違和とは、なんでしょうか

 

「出生時に割り当てられた性別と、本人が経験している性別が一致していない状況」などの定義はあります。トランスボーイだと、女児として生まれたけれど制服のスカートが苦痛で男子として登校を希望する、トランスガールだと長い髪を好み立って排尿することを拒む、などの典型的な語りはありますが、男性にも女性にもいろいろいるように、人によってそれらは個人差があります。服装に敏感な人もいるし、それほど敏感でない人もいます。異性の遊びを好む、などと書いてある資料もありますが、それも人によります。

 

性別違和がいつから始まるか、という質問もよくされますが、これは本人がいつ社会の中での性別の決まりごとにぶつかるかによります。違和感は、かべにぶつかったときに経験されます。通っている幼稚園に制服があって、ズボンとスカートが性別でわかれていたら、そこで違和感がめばえたり、あるいはお遊戯の時間に、女の子だけダンスをさせられて、それが嫌だったと語る人がいます。「あなたはこちら」と周囲に割り振られるできごとがあって、そこで思いが溢れて、表面に出てくる。違和感を覚えることで意識化されます。だから、性別違和は何歳になると現れてきますよ、という画一的なことでもないです。

 

Q2 大人の性別違和との違いは? 

 

大人は抽象的に考えて話をしますが、子どもは具体的な事柄に対して違和感を表明する傾向があります。また、ジェンダーについての考えが未発達な部分があります。ある小学生がスカートが履きたいといい、女子として通学を始めたとします。でも、スカートを履いて女子トイレで立ちションしようとする子もいる。大人だったら「あなたは性別違和を持っているんだから立ちションはしないでしょう」と思うけれど、その子の中では問題はないこともある。それと、幼い子どもの場合は性別のゆらぎを経験する子もいます。性別違和があって絶対に髪の毛は長い方がいいと言っていた子が、小学校高学年になって髪の毛をバッサリ切って、そのあとは男子として生きていったり、同性愛なのかトランスジェンダー なのか自分がよくわからないという子もいます。同性を好きになったことをきっかけに自分の性別について悩みはじめることもよくあります。「自分は女の子として生まれて、女の子が好きだ。女の子を好きになるのは男の子なんだから、自分は男の子かもしれない。もともと自分は男子っぽいところもあるし」と考えている子もいますが、そのように悩んでいる子が同性愛の場合もトランスジェンダー の場合もあります。どちらかだと決めつけず、経過を見ていくのが良いでしょう。

 

Q3  性別違和に原因はあるの?

 

はっきりした原因はありませんし、「自分の育て方によるのでは」と心配される親御さんも時々おられますが、親御さんのせいでもありません。髪の毛の色や、目の大きさの違いみたいな多様性の一つに入るようなもので、人類が人類であるために持っているいろいろな多様性の一つとして捉えたら良いのではないでしょうか。

 

Q4 LGBTの子、見分けられる?

 

見分けられません。幼いお子さんを連れてこられる親御さんに「自分の子どもがそうかもしれない」「この子はトランスジェンダーでしょうか」とこのような質問をされる方がいますが、私も「わかりません」と答えています。基本的にその子が好きなように振る舞えるようにするのが良いでしょう。もしその子が「自分はひょっとしたらLGBTかもしれない」と言い出したら「そうなんだ」って受け入れてあげたらいいと思います。大切なのは、お子さんの気持ちを押さえつけないことです。私がこれまで関わってきた子どもたちの中には、自分を否定された結果「自分は変なんだ、ダメな子なんだ」と学校に行きたくても行けなくなったり、自傷行為を行ったりしている子たちがいます。周りの受け止めは大切です。

 

Q5 息子がスカートを履きたがる。どうしたら良いでしょうか?

 

履いたら良いのではないでしょうか。以前、トランスガールと思われるお子さんを連れてきた親御さんに「この子は、これからは女の子のおもちゃ売り場に連れて行ったらいいんですよね?」と尋ねられました。私は「いや、どちらの売り場でもいいから、この子の好きなおもちゃを選ばせてください」と返しました。トランスだからこう、と決めつけず、その子が好きなことを尊重しましょう。

学校にスカートの制服で登校する場合には周りとの相談が必要でしょう。「これまで男子として通っていて突然スカートとなると大丈夫?」と本人と考えましょう。制服よりもハードルの低い私服でまずは外出を試してみるとか、近所の目が気になるなら外出先でスカートに履き替えて様子を確かめてみるとかも良い方法だと思います。関西で行われているトランスジェンダー生徒交流会ではトランスガールの子達が初めてスカートを履いて周りから「可愛い」とか拍手されたりして、とても良い雰囲気があります。

 

Q6  病院にはかかった方がいい?

 

学校が「お墨付き」のように診断書を求めてくる場合などが時折ありますが、もっとも大事なことは性別に違和感をもつ子どもの気持ちにより添って柔軟に対応することであって、病院を受診して診断をしてもらうことが、ご本人の希望を叶えるための条件になることはよくありません。まずは学校とじっくり話し合ってみることが大事だと思います。例えば制服についても学校と話し合うことで、希望する制服を着ることができた場合もあります。

 

Q7 身体への違和感と治療について

 

二次性徴が苦痛だ、という子に対しては二次性徴抑制の治療を行うことができます。一般的にGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストという薬を使用して望まない身体の変化を止め、その間に自分がどのような性別で生きていきたいかを落ち着いて考えることができます。大学病院で行う場合には学校を通院で休む必要があったり、また費用が高額だったりするので、そのあたりのハードルはあります。

 

二次性徴が始まる時期になると、視床下部というところからGnRHという物質が出て下垂体に働き、下垂体から性腺ホルモン刺激ホルモンが出ることによって、精巣がある場合は男性ホルモンが、卵巣がある場合は女性ホルモンが出てきます。GnRHアゴニストはGnRHの働きを止めてしまいますので、性腺ホルモン刺激ホルモンは放出されず、二次性徴が起こる前の状態に留まります。GnRHアゴニストの使用を中止すると二次性徴が始まります。GnRHアゴニストは前立腺癌や乳癌の治療薬として使用されており、様々な副作用が報告されています。子どもに対しては思春期早発症という二次性徴が非常に早く始まってしまう疾患に使用されていますが、思春期早発症に使用した場合には重大な副作用は報告されていません。

 

Q8  周りの大人に一番伝えたいこと

 

親御さんは子どものことを思って、子どもの幸せを願ってどうしたら良いか情報を探したり学校に掛け合ったりしていると思います。でも、子どものことを受け入れるのは簡単なことばかりでもないでしょう。希望する性別で子どもが生活できるようになって3年、4年経った頃に、おかあさんが「私、本当はだめなんですよ。ずっと男の子だと思って育ててきたのにかわいかったAちゃんはどこに行ったんだろうって、今でも思うんです」とこぼされることがあります。葛藤があるのは当たり前です。いろいろな人の力を借りながら、でも、子どもにとって最善なことを模索して行けると良いですね。